刺さらない言葉は、どこへ届くのだろう

最近、「刺さる言葉」という表現をよく目にします。

読者に刺さる文章。

心に刺さる言葉。

ターゲットに刺さる発信。

わたし自身も、文章を書いたり発信したりするので、そういう言葉に触れる機会があります。

そして、そのたびに少しだけ立ち止まります。

「刺さる」って、面白い表現だな、と。

もちろん、悪い意味ではありません。

誰かの言葉にハッとしたり、

自分でも気づいていなかった気持ちを言い当てられたり、

強い言葉に背中を押されたり。

言葉が「刺さった」ことで、何かが動き出すこともあります。

わたし自身、そんな経験はあります。

だから、刺さる言葉を否定したいわけではありません。

ただ最近、

言葉が人に届く方法は、「刺さる」だけなのだろうか。

そんなことを考えるようになりました。

「刺さる」という言葉から、わたしが思い浮かべるのは、先端のあるものです。

ある一点を目指して、まっすぐ届く。

文章でも、

「あなたが苦しいのは、これが原因です」

「あなたに必要なのは、これです」

そんなふうに相手の中にある何かを見つけて、そこへ言葉を届けることがあります。

それによって救われる人もいると思います。

「ああ、まさにわたしのことだ!」

と思えることが、必要なときもあります。

でも、わたしが文章を書くときは、

どうもそこを目指していないようです。

あなたはこうですよね、と言いたいわけでもない。

こう考えたほうがいいですよ、と言いたいわけでもない。

何かに気づいてほしいわけでもない。

ただ、

わたしはこんなことがあった。

こんなふうに感じた。

今は、こんなふうに見えている。

それを、そこに置いておきたい。

読んだ人が、

「わかる」

と思うかもしれない。

「わからない」

と思うかもしれない。

「わたしは違うな」

と思うかもしれない。

あるいは、

「ふーん」

で終わるかもしれない。

それでもいいと思っています。

でも、ときどき不思議なことが起こります。

読んだ瞬間には、それほど何も感じなかった言葉が、

何日か経ってから、ふと浮かんでくる。

お風呂に入っているとき。

道を歩いているとき。

誰かと話しているとき。

何かに迷っているとき。

「ああ、あの言葉って、こういうことだったのかな」

と、突然、自分の経験とつながる。

書いた人が届けようとした場所とは、まったく違うところに届いていることだってあるかもしれません。

それは「刺さる」とは、少し違う気がします。

水が土に染み込んでいくような。

輪郭のはっきりしないものが、少しずつ混ざっていくような。

そんな言葉の届き方もあるのかもしれません。

そして最近、

わたしが大切にしたいのは、こちらなのだと気づきました。

相手のどこに届くのかを、わたしが決めない。

何を感じるのかも決めない。

何かを受け取るのか、受け取らないのかも決めない。

それはもしかすると、

読み手を信頼すること

でもあるのかもしれません。

その人には、その人自身で感じる力がある。

その人には、その人自身で考える力がある。

その人には、その人にしか見えない景色がある。

だったら、こちらがそこまで入り込んで、

「ここを見て!」

と指差さなくてもいいのかもしれない。

わたしはボディワークでも、

相手を「変える対象」として見ないことを大切にしています。

わたしが正しい場所へ連れていくのではなく、

その人の身体に起きていることに、一緒に触れていく。

文章を書くことも、

わたしにとっては少し似ているのかもしれません。

言葉を使って、誰かを変えようとしない。

ただ、自分が見たものを置いてみる。

そして、その先で何が起きるのかは、その人に返す。

そうすると、

書き手と読み手の間に、少し余白が生まれます。

その余白の中で、

書いたわたしには想像もできなかったものが、

その人の内側から生まれることもあるのかもしれません。

もちろん、

刺さる言葉が必要なときもあると思います。

強い言葉だからこそ届くこともある。

「それ、わたしのことだ!」

と一瞬で心をつかまれる文章も、とても面白い。

ただ、

言葉の届き方は、それだけではない。

読んだ瞬間には、

何も起きなかったように見える。

けれど、いつの間にか、

その人の中の何かと混ざっている。

刺さるのではなく、

染み込む。

説得するのではなく、

そこに置いておく。

そしていつか、

書いた人の手を離れたところで、

その人だけの何かになる。

わたしはたぶん、

そんな文章を書いていたいのだと思います。

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